職人とコミュニケーション

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職人とコミュニケーション

On 9月 30, 2016, Posted by , in 着物作り, With No Comments

 

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おしゃれな着物を染めるため、心のおしゃれを重視する、カラーズ京都の長瀬澄人です。

 

今日は真面目に、ちょっとお堅いですが、着物の染工房という業種について書いてみようかと思います。

着物を染める仕事と聞くと、なんだか芸術的で、繊細で、おくゆかしいなどなど、耳触りの良い印象かもしれませんが、これから書くことは、それとは掛け離れたネガティブな内容が多いです。
しかし、決して愚痴や不満を言いたい訳ではなく、着物製作現場の実状を、私の実体験に基づいたレポートとして捉えていただければと思います。

カラーズ京都が属している「板場」と呼ばれる原始的な型染めに限定して書いてみますが、少なからず他の製作現場にも共通点はあるかと思います。

 

 

今現在、京都市内で実際に稼働している板場は、大小合わせて約100軒を切るくらいと言われています。

昭和40年代からバブル時代にかけての最盛期には、1万軒をゆうに超えるとも言われたことからすると、当時から比べて99%の減少と、目を覆いたいくらいの縮小率です。

最盛期に異常に多過ぎたということもありますが、比較すると、もはや絶滅寸前とも言えます。

そして、さらにその100軒のうち、後継者がなく、今後10年以内に事実上廃業になると見込まれる割合は、約8~9割と予想されます。

時間の問題で、ほとんど無くなってしまうのです。

 

では、いま現存する染工場はどのような体制かと言いますと、約7割は家内制工業として、自宅の一部が工場になっているような形で、家族で手分けして業務を行っていたり、一人二人くらいの職人さんを雇い、回している形が多いです。

そして、残り3割は企業として5〜10名くらいの人員を維持しながら存続しているというのが、大まかな内容です。
では、実際に染の作業に従事する職人の年代層を見てみると、

70代…50%

60代…30%

50代…10%

40代…7%

30代…2%

20代…1%

といったところでしょうか。(カラーズ調べ)
これを見ると、全体の約7割は年金受給者で構成されていて、若者がほとんどいないということが確認できます。

 

なぜ若者がいないかと言うと、大きく3つの障壁があります。

 

①修業期間が必要であること

職人として仕事を任せてもらえるようになるには、およそ3年〜5年ほどの修業が必要となります。

その間、勤め先にもよりますが、まともな給料を得ることはできません。

その上、修業はとても厳しく、心身共に忍耐力の弱い人ではまず継続できません。

また、現在は若い労働者を受け入れることができる余裕がある工房も、ほぼ皆無です。

 

②一人前の職人として認められるようになっても、就職先が少なく、賃金も極めて少ない

厳しい修業を乗り越えても、いわゆる正規雇用という形での就職は困難で、日当数千円〜という現実があり、それならば時給の良いアルバイトをする方がよいと言ってしまえば元も子もありません。

年金受給者にとっては、それでも良いかもしれませんが、これから一家の大黒柱になろうとする若者にとっては、初めからそれは無理だと言われているようなものです。

 

③総じてポジティブな要素が極めて少ない

辛い修業を耐え、一人前になってもまともに稼ぐことができず、なおかつ年配者ばかりで同世代がいない中、まだ先細る業界だと考えると、夢や希望を見出すことは難しいです。

 

そんな厳しい現実を知ると、この仕事がしたいと思う人などまずいませんよね。

しかしそれでも自分はやるんだと決意できる若者が、果たしてどれだけいるのでしょうか。

また、雇用する側も、満足な給料を払ってあげられない現状を、決して良いとは思っていないけれども、どうにもできずに苦しんでいる状況です。

 

 

私自身が意を決してこの仕事を真剣にやるようになったのは、16年ほど前でしたが、業界内で知り合う人の多くから、数奇な目で見られているなと思うことがよくありました。

「誰もやりたがらない職人なんて仕事、よくやる気になったね」

と言われることは当たり前で、酷い場合には、

「しんどいだけで、儲からないし、この先仕事なんてほとんど無くなっちゃうよ」

と、職人に仕事を発注するメーカーの人からも他人事のように言われることが多々ありました。

 

もちろんそんな湿っぽいことを言われるばかりではなく、有り難いことに、励みになるような言葉をもらうこともあるのですが、厳しい現実と向き合い、心に火を灯し続けるためには、結局自分の意思の強さが必要です。

実際のところ、私は常にこの16年ほどの間、特に独立以降は、アトリエを存続させるにはどうすればよいだろうと考え、頭と身体を動かし続けています。

文字通り、一所懸命です。

 

そして、そのモチベーションを維持するため、私が一番大切だと思うことは、着物が好きだという人とのコミュニケーションです。

自分の仕事が、誰の喜びに繋がっているのか、それをきちんと理解し、実感すること。

生地にばかり向かい合うのではなく、それが好きだと言ってくれる人とコミュニケーションをとる中で共有することこそ、これからの製作現場にまず必要なことだと、私は考えています。

 

製作する側も、今後はもっと互いに声が届きやすい場所に立つ努力をするところが増えていくと思いますので、着物を好きだと思う方は、そんな職人たちに、できるだけ積極的に声をかけてあげてください。

「頑張ってください」とか、「応援してます」とか、特に気の利いた言葉でなくとも、それだけで得られるパワーは本当に大きいのです。

大袈裟かもしれないですが、そんな小さなコミュニケーションこそが、職人たちや着物の文化そのものの存続への鍵となると、私は思っています。

 

気が付けば長文になりました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

カラーズ京都は、他愛ない会話やコアな会話、着物の相談はもちろん、職場の愚痴、果ては恋愛相談に至るまで、着物が好きという共通点を通じたコミュニケーションを重視するアトリエです。
お気軽にご来店ください。

お待ちしております。

 

 

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